GaNパワー半導体が組み込み設計を変える——PCIM 2026で見えた次世代電源技術の潮流

生成AIの急拡大によってデータセンターの消費電力が増大し続ける中、窒化ガリウム(GaN)パワー半導体への注目がかつてないほど高まっています。2026年6月にドイツ・ニュルンベルクで開催されたパワーエレクトロニクスの国際展示会「PCIM Expo & Conference 2026」では、AIサーバ向け電源技術としてGaNが会場全体のキーテーマとなりました。本記事では、PCIM 2026で見えたGaN市場の最新動向と、組み込みエンジニア・IoTエンジニアへの影響を整理します。

目次

GaNパワー半導体とは?シリコンとの違い

GaN(窒化ガリウム)は、従来のシリコン(Si)に代わる次世代パワー半導体材料です。GaNはバンドギャップがSiの約3倍と広く、高電圧・高周波での動作が得意です。これにより、高スイッチング周波数による回路の小型化・軽量化、高い電力変換効率による発熱抑制、そして同サイズでより大きな電力を扱える高電力密度という3つの大きな特長を持ちます。スマートフォン向けの急速充電器(GaN充電器)として一般消費者にも広く普及しており、IoT機器や産業機器の電源設計にも積極的な採用が進んでいます。

PCIM 2026で見えたトレンド:AIがGaN需要を押し上げる

EE Times Japanの現地レポートによると、PCIM 2026ではAIサーバ/データセンター向け電源を意識した展示が非常に多く、PCIM主催者側も今回初めて「AIとデータセンター」を独立したテーマステージとして設けたほどです(出典:EE Times Japan、2026年6月18日付)。背景には、生成AI・大規模言語モデル(LLM)の普及によるGPUの消費電力急増があります。サーバラック当たりの電力密度は年々上昇しており、従来のシリコンMOSFETでは効率・熱管理の面で限界が出始めています。そこでGaNが「高効率・高電力密度」を実現する解として一気に注目を集めているのです。

「メモリの壁」も深刻化するAIインフラ

電力効率と並行して、AIインフラではメモリも重大なボトルネックになっています。AMDは2026年6月15日(米国時間)、予測型メモリ技術に特化したスタートアップ「MEXT」の買収を発表しました(出典:EE Times Japan、2026年6月18日付)。DRAMはAI需要の急増により、現在サーバコストの約60%を占めるまでに拡大しています。MEXTはNANDフラッシュメモリをDRAMのように高速動作させるAI駆動型メモリ最適化技術を開発しており、「メモリの壁」を打破することを目指しています。電力・メモリの両面でAIインフラの技術革新が急速に進んでいます。

大手パワー半導体メーカーがGaN競争に本格参入

数年前まで、GaN市場をリードしていたのはInnoscience、Navitas、EPC、Transphorm、GaN Systemsといった専業メーカーでした。しかし2020年代に入り、大手による参入・買収が相次いでいます。Infineon Technologiesは2023年にGaN Systemsを買収し、STMicroelectronicsは2020年にフランスのExaganを買収しました。さらにonsemiも2025年にGaN事業への本格参入を表明。これにより、パワー半導体世界トップ3がすべてGaN競争に参加した形になりました。

日本勢もGaN内製化の動きを加速しています。EE Times Japanの記事によると、Rohmは浜松に技術者を集結させ、2027年のGaN内製化に向けて全力で取り組んでいます。大手の参入により、今後はGaN製品の選択肢拡大・コスト競争力向上・供給安定化が期待されます。

組み込み・IoTエンジニアへの影響と設計のポイント

GaNの大手参入・量産化が進むことで、組み込み設計・IoT開発の現場にも具体的な変化が生まれます。以下に主要な3つのポイントを解説します。

電源回路の小型化・高効率化が現実的に

GaNデバイスのコスト低下により、産業用IoT機器や組み込みシステムの電源にGaNを採用しやすくなります。スイッチング周波数を上げることでトランスや平滑コンデンサを小型化でき、機器全体の小型・軽量化につながります。バッテリー駆動のIoTエッジデバイスでは、電力効率の向上が稼働時間の延長に直結します。

モータードライブ・インバーター設計の高度化

EV・産業機械・空調などのモータードライブ回路にGaNを適用すると、インバーター損失を大幅に低減できます。AI制御と組み合わせた高精度モーター制御の分野でも有望な技術であり、工場の自動化・省エネ化への貢献が期待されています。

熱設計・EMC対策の見直しが必要

GaNは高効率ゆえに発熱が少ない一方、高周波スイッチングに対応した基板レイアウト設計とEMC対策が重要になります。ゲートドライバの選定や配線インダクタンスの低減がポイントです。GaNメーカー各社はリファレンスデザインを提供しており、活用することで設計リスクを効果的に減らせます。

まとめ:GaNは今後の組み込み設計に欠かせない技術

PCIM 2026は、GaNパワー半導体がAIインフラを中心に一段と存在感を高めたことを示す場となりました。Infineon・STMicro・onsemiというパワー半導体トップ3の本格参入により、GaN製品の選択肢とコスト競争力が増し、組み込み・IoT設計への採用ハードルも下がりつつあります。一方で、GaNの特性を最大限に活かすには、基板設計・熱管理・EMC対策のスキルアップデートが欠かせません。AIデータセンターの電力需要増加とGaN市場の拡大は今後も続くとみられており、組み込みエンジニア・IoTエンジニアにとっても避けて通れないキーテクノロジーとなっています。最新動向をキャッチアップし、次のプロジェクトに備えましょう。

出典:EE Times Japan「PCIMで感じたGaNパワー半導体競争の変化」(2026年6月18日)、「AMDがメモリ最適化技術の新興を買収」(2026年6月18日)


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